どうなる「ヤマト運輸」!? 120億円訴訟にて営業利益6割減...。現場が訴える凋落の原因とは?

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2025年06月01日 08:50  週プレNEWS

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5月1日に発表されたヤマトホールディングスの決算は、営業利益がなんと6割も減少していた。宅配大手の一角は、なぜここまで凋落してしまったのか!? ヤマトで働く社員や下請けに話を聞くと、現場で起きている構造的な問題が見えてきた!

【写真】約3万人の契約終了をしたヤマト

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■ヤマト運輸と2024年問題

2024年4月1日、他業種から5年遅れでトラックドライバーにも働き方改革が施行され、時間外労働が年間960時間に規制された。これによって生じる諸問題は「物流の2024年問題」と称され、「30年までに約35%の荷物が運べなくなる」と懸念された。

施行から1年。大手運送会社のヤマト運輸(以降、ヤマト)を傘下に持つヤマトホールディングスは5月1日、25年3月期の決算を発表した。売上高は1兆7626億9600万円(前年同期比0.2%増)と微増したものの、企業が本業で稼いだ利益である営業利益はなんと64・5%減となる142億600万円だった。

業績低迷の一因となったのは、大口の法人顧客であるAmazonとの運賃交渉がうまくいかなかったことはもとより、2024年問題の対策として講じた、日本郵便との協業の失敗だろう。


ヤマトは23年6月、配送網を維持するため、企業などのカタログやパンフレット、チラシを配るメール便「クロネコDM便」と、ポストに入るサイズの薄型荷物サービス「ネコポス」の配達業務を、競合である日本郵便に委託すると発表。今後集荷はヤマトが行ない、配達は日本郵便が担うことで合意した。

これに伴い、ヤマトはこれら小型荷物の仕分け業務などに従事する約4500人のパート社員と、「クロネコメイト」と呼ばれる配達担当の個人事業主約3万人との雇用契約を24年1月末に終了させた。

だが、これに反発した労働組合が契約解除の撤回を求める動きも発生。ヤマトはパート社員全員と面談し、3割に当たる約1300人は別の業務に就いたというが、多くの労働者が職を失うことになった。


同年2月、ヤマトは予定どおり自社のサービスだった「クロネコDM便」を終了させ、日本郵便の「ゆうメール」の配送網を活用した「クロネコゆうメール」をスタートさせた。

ところが同年11月、「従前より配達の日数が伸びてしまう事態が発生している」として、ヤマトが日本郵便に薄型荷物の委託中断を求める要望書を提出。これに対し日本郵便側は「送達速度に違いが出るのは両社で合意済み」だと反論し、120億円の損害賠償を求め提訴。今も係争中だ。

■しわ寄せは下請けのドライバーに

ヤマトに逆風が吹いたもうひとつの原因は、働き方改革の影響だろう。

ヤマトの正社員やパート社員、下請け企業で働くトラックドライバーら計23人に「働き方改革によって働きやすくなったか」を5段階で評価してもらったところ、回答の平均は2.3だった。詳しく話を聞くと、現場の労働環境改善のための法律が、逆に現場を働きにくくさせている様子がうかがえた。

中でも宅配ドライバーたちに不評なのが「430(ヨンサンマル)休憩」。これは連続4時間走ったドライバーに30分以上の休憩を義務づける規定なのだが、ヤマト社員で、関東を走る宅配ドライバーのAさん(20代男性)は「現場を見ていない制度設計だ」と憤りを隠さない。

「430休憩は絶対にわれわれ宅配ドライバーには必要ないと思います。というのも、ヤマトでは集配作業中も運転していると見なされており、その累計時間が4時間を超えると休憩しなければならないんです。

でも、私の担当エリアでは長距離を走るわけではなく、最長運転時間は10分未満。休憩場所が用意されているわけでもないので、じゃまにならない場所を探して休んでいます。労働時間が短くなってしまいますし、かといって実際はゆっくりできるわけではないので、困っています」

関東を拠点とするヤマト社員の宅配ドライバー・Bさん(40代男性)も同意する。

「働き方改革で労働時間が制限された上、430休憩順守の指示があり、ドライバーが動ける時間がどんどん削られています。

荷物量は変わらないのに集配に使える時間が減ることで焦りが半端なく、また、休憩時間も増えたことでその分給料が上がらない。ドライバーにとってはありがた迷惑な状態です」

ルール変更に困惑しているのは何もヤマト社員だけではない。ヤマトの下請け企業で働くドライバーたちにも悪影響が及んでいる。

宅配業はラストワンマイル(顧客に荷物が届く最後の区間)だけを担っていると思われがちだが、実は荷主から預かった荷物を各地域へ輸送する中長距離の「路線便」が多く存在する。

この路線便には「庸車(ようしゃ)」と呼ばれる下請け企業のトラックが存在しているのだが、四国を走るドライバー・Cさん(40代男性)は「ヤマトの施策が裏目に出ている」と愚痴をこぼす。

「ヤマトは各ベース(荷物を集めて行き先別に仕分ける物流ターミナル)の売り上げを増やすために各地の集配拠点を集約していますが、迷走の感が否めない。

そして何より、この移転で下請けドライバーの負担が増えています。僕の場合、待機する場所がなく430休憩も取れなくなりました」

庸車のドライバーから多く寄せられたのが、営業所で仕分けや積み込みをする作業員たちの作業効率が落ちているという声だ。いったいなぜ? 富山県で仕分け作業を行なうヤマト社員のDさん(40代女性)が解説する。

「最大の原因は、ドライバーより5年前に施行された作業員たちの働き方改革によって、労働時間が減ったから。残業制限が厳しくなり、昔のようにキリのいいところまで仕事をして上がれなくなったんです。そのせいか、『契約時間が来たら上がればいい』というマインドが横行。その結果、どうしてもバイト感覚の人が多くなってしまいました。

仕分けも積み込みもこれまでは熟練のスタッフが担当していた高度な業務。ドライバーがスムーズに配達できるよう工夫を凝らしながら作業するのは簡単ではないんですけどね」

ただ、契約時間に退勤すること自体は決して悪いことではない。問題を大きくしたのは、こうしてさばき切れなくなった仕分け業務を、派遣やアルバイトのスタッフを増やすことで対応しようとしている点だ。四国を走る下請けの路線ドライバー・Eさん(30代男性)はこう言う。

「うちの担当エリアも熟練の作業員が減り、スキマバイトや派遣のスタッフが増えました。その結果仕事が遅くなり、指定の時間にセンターに着いてもすぐ出発できない。結果的に拘束時間が延びました」

当然だが、この下請けのドライバーたちにも24年から働き方改革が施行され、労働時間が短くなっている。待機させられる時間が長くなれば、そのしわ寄せは彼らにいく。

そんな背景もあってか、24年1月、ヤマトは長時間の荷待ちなど、法令違反につながる行為が多数あったとして国土交通省から初の是正勧告を受けている。

■本来する必要のない業務が追加

日本郵便に小型荷物に関する協業を持ちかけたのは、ほかでもないヤマトだ。しかし24年2月の「クロネコゆうメール」への切り替え完了後、メール便は24年度上半期の集荷数量が前年比で85%減となった。想定以上の客離れに動揺したのか、ヤマトは協業からわずか1年半で翻意。当初ネコポスは24年度末までに順次終了し、日本郵便との「クロネコゆうパケット」に切り替わる予定だったが、25年1月には販売再開を発表している。

こうした朝令暮改に振り回されるのは現場の作業員やドライバーたちだ。ヤマトの迷走や誤算について、彼らはどう思うのか。ヤマトのグループ会社で路線ドライバーとして働くFさん(40代女性)の見解を伺おう。

「あきれています。ヤマトの上層部の迷走に、皆振り回されて先が見えない不安がある。退職者も続出しています」

東海地方で働く宅配ドライバーのGさん(30代男性)も同意見だ。

「投函(とうかん)商品を手放すと減収するのは当然で、業績が悪化したことを理由に協業の見直しを要求するのはとても勝手だと思う。荷主さんに事の経緯を説明するのも面倒で、現場の負担になっています」

ドライバーの業務が増えた営業所もあるという。前出のヤマト社員Dさんの証言。

「私の営業所では、ドライバーさんがネコポスを配達しなければならなくなった。これは本来業務外の作業で、小回りの利く自転車やバイクで配達するもの。実際に『〇〇さん(ネコポスを配送していた委託業者の名前)がいなくなってキツイわ』とおっしゃっていた方が何人もいて、とても大変そうに見えました」

待遇の悪化を嘆く声も相次ぐ。前出の宅配ドライバーGさんは収入が減ったと言う。

「ボーナスは下がりっぱなしです。また、福利厚生として慶弔(けいちょう)見舞金制度があるのですが、その3種類のうちひとつが打ち切りに。会社から大切にされている感じはないです」

Dさんもこう言う。

「24年の年明けから物量が急激に落ち込んだのですが、それに対する周囲の危機感・緊張感のなさに不安を感じました。それからは経費削減のためか、内勤の方が事務所の電気を消してパソコンで作業をされているのを見たんです。同年5月頃には副所長が『今後、荷物が減ればクビも起こりえる』と。こんなことをはっきり言われたのは初めてでした」

■来季の営業利益は2.8倍を見込むが......

現在こうした苦境にあえぐものの、ヤマトの歴史は長い。

1919年、銀座で創業したヤマトは、当時日本にあったトラックの総数204台のうち、4台を保有。創業11年目に日本初の路線事業を開始するも、高速道路の完成時に長距離輸送への参入に出遅れる。 

そこで76年、「電話1本で集荷、1個でも家庭へ集荷、翌日配達、運賃は安くて明瞭、荷づくりが簡単」というコンセプトの下、「宅急便」が誕生。以降、日本のトップ宅配企業として業界を牽引(けんいん)し続けている。

宅配業は、ある程度の個数を集めないと配送効率が上がらず利益が出にくい、いわゆる「薄利多売」のビジネスだ。ところが宅配に各社が参入すると価格競争が熾烈(しれつ)化し、運賃値下げ競争が勃発する。2000年代に750円だった宅配物の平均単価は、14年頃には一時500円台にまで下落していた。

さらに、ネットショッピングの普及で送料無料サービスが浸透。しかしここまで見てきたように、配送には莫大(ばくだい)なコストが発生しており、決して料金のかからないものではない。ヤマトも「送料無料」の広がりに苦しめられてきた企業のひとつだ。

こうして低価格で顧客のニーズに応えようとするあまり、現場の労働環境は悪化。結果的に配達の品質が低下する。こうした構図は現在まで変わらず続いており、直近の決算ではこの問題が表面化したと言えるだろう。

ヤマトホールディングスは5月1日の決算で、次期の業績予想も発表していた。26年3月期の連結営業利益は、前期比2.8倍の400億円になる見通しだという。実現に向け、個人向け宅急便や法人顧客向けに運賃の引き上げを進める。つまり問題の根本にあった価格を見直し、構造的な問題にメスを入れる姿勢を示したとみることもできる。

同時に、24年3月期には約2900拠点あった集配拠点を27年3月期には約1800拠点に集約し、効率化にも取り組むとしている。しかし今回現場から聞かれるのは、前述のとおり、その「拠点集約」による懸念だ。前出のGさんはこう言う。

「今進んでいる拠点の大型化計画は失敗していると思います。また、トラック輸送の代替手段となる航空輸送拡大のため飛行機を購入するも、こちらもあまり成果が出ませんでした。いかにも役員たちが会議で決めたようなことが立て続けに失敗している印象で、その尻拭いを社員がさせられている感じがします」 

机上の数字を追うばかりの「効率化」で、現場は疲弊してきた。しかしサービス品質の向上は、現場に優しい会社から生まれるものだ。

「このままでは、現代的なバランス感覚を持っている家庭や若い世代からは、運送業は選ばれない業種になるんだろうと思います。社会的なインフラとしてなくてはならない仕事なので、女性や外国人、若いコがもっと働きやすい職場にしてほしいと思います」(前出・Gさん)

ヤマト、そして日本の物流は歴史的な分岐点に立っている。

取材・文/橋本愛喜 写真/時事通信社

このニュースに関するつぶやき

  • 在宅で到着を待っているのに不在票が投函されている事が増えた気がします。何かしら影響あるのかしら。
    • イイネ!28
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